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名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)1369号 判決

原告

榎村巴

右訴訟代理人

野田弘明

被告

神谷孟

被告

神谷暁子

被告

加藤佐郎

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立

一  原告

1  原告と被告らとの間において、原告が、別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地という。)のため、被告神谷孟(以下、被告孟という。)、被告加藤佐郎(以下、被告加藤という。)共有の別紙物件目録(二)記載の土地(以下単にの土地という。)、被告加藤所有の別紙物件目録(二)記載の土地(以下、単にの土地という。)、被告孟、被告神谷暁子(以下、被告暁子という。)共有の別紙物件目録(二)記載の土地(以下、単にの土地という。)のうち、別紙図面記載のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、イの各点を順次結んだ範囲の土地(以下、右土地を同図面赤斜線〈編注―細斜線〉表示部分という。)につき、囲繞地通行権を有することを確認する。

2  仮に前項の請求が認められないときは、

原告と被告らとの間において、原告が、本件土地のため被告加藤所有のの土地、被告孟、被告暁子共有のの土地、別紙物件目録(二)記載の土地(以下、単にの土地という。)、別紙物件目録(二)記載の土地(以下、単にの土地という。)のうち、別紙図面記載のA、ハ、B、C、D、E、Aの各点を順次結んだ範囲の土地(以下、右土地を同図面青斜線〈編注―太斜線〉表示部分という。)につき、囲繞地通行権を有することを確認する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

主文同旨。

第二  主張

一  原告の請求原因

1  原告は、本件土地を所有しているが、本件土地は、その東側および南側が崖地であつて公道に接することなく、またその西側および北側は、別紙図面記載のとおり、、、の各土地に接するのみで公道に通じることができず、いわゆる囲繞地である。

2  本件土地は、もと、の土地および名古屋市千種区向陽町二丁目一一番七の土地とともに、一筆の同所一一番の四の土地(以下、旧一一番四の土地という。)であり、また、、の各土地はもと一筆の一番五(以下、旧一番五の土地という。)の土地であり、いずれも訴外中山甚一の土地であつた。原告の先代訴外亡荒川俊は、昭和二七年四月一九日、訴外中山より、右旧一一番四の土地を一一番五の土地と本件土地に分筆して、本件土地の譲渡を受け、本件土地が袋地になつたものである。

3  訴外亡荒川は、本件土地上に建物を建築して居住し、その後昭和三四年四月一二日に死亡し、その子である原告がこれを相続して、昭和四九年頃まで本件土地を使用していたが、その際の公道への通路としては訴外中川所有の旧一番五の土地ないしの土地のうちおおむね別紙図面赤斜線部分を利用してきた。また、訴外中山は、昭和三五年に旧一番五の土地よりの土地を分筆し、昭和四一年一月七日に旧一番五の土地よりの土地を分筆し、翌八日、の土地を訴外有限会社丸信建設に譲渡したが、右の土地は本件土地およびの土地のための通路として確保されていた。

以上の経過に照せば、右の土地を主体とする別紙図面赤斜線表示部分は、本件土地のための通路としてもつとも損害の少い土地である。

4  訴外中山は、昭和四一年一月八日、の土地の持分八分の五およびの土地を訴外有限会社丸信建設に譲渡し、同会社は昭和四四年一月一三日に右各土地を被告加藤に譲渡した。訴外中山は、昭和四二年七月二八日、の土地およびの土地を訴外川瀬幸枝に譲渡し、訴外川瀬は昭和五四年四月一一日右各土地を訴外川合留芳に譲渡した。訴外川合は、昭和五四年四月二〇日、訴外水野充外二名よりの土地を取得し、昭和五五年六月一三日、被告孟、被告暁子の両名に対し、右、、の土地を一括して譲渡した。

また被告孟は、昭和五五年六月一三日、訴外中山の相続人多美夫からの土地の持分八分の三を取得した。

5  したがつて、被告らは、本件土地を囲繞する土地の所有者であるから、本件土地のため別紙図面赤斜線表示部分の土地につき通行権を負担することを承認すべきであるのにこれを争うので、原告には被告らとの間でその旨を確認する利益がある。

6  仮に、前記3の主張のとおり通行権を確保することが、本件土地において愛知県建築基準条例第四条に照し居住用建築物の建築が認められないため、その合理性がないとされるときは、、、、の各土地のうち別紙図面青斜線表示部分の土地を本件土地のため通路とすることが合理的であり、かつ損害の少い土地である。すなわち、原告は名古屋市千種区田代町字蝮ヶ池二番七四の土地のうち別紙図面記載のB、C、F、Bの各点を結ぶ土地についても所有権ないし通行権を取得すべく準備中であるが、右土地と別紙図面青斜線表示部分の土地とを合せれば、私道ではあるが公衆用道路に接続し、前記条例にいう巾員2.5メートル、長さ二五メートル未満の路地状土地に該当することになり、本件土地に居住用建築物を建築することが可能となる。本件土地の社会的効用を果すためには右通路の確保が必要であるうえ、最短距離の通路であるから被告らにとつても損害は最も少いと言えるからである。

よつて原告は、被告らに対し、本件土地のため主位的に別紙図面赤斜線表示部分につき、予備的に同図面青斜線表示部分につき、囲繞地通行権を有することの確認を求める。

二  請求原因事実に対する被告らの認否〈省略〉

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一1  請求原因1の事実、および本件土地を囲繞する各土地の所有者である被告らが、原告主張の各囲繞地通行権の位置、範囲を争つていることは、当事者間に争いがない。

2  また、〈証拠〉によれば、請求原因2の事実も認めることができる。

二1  〈証拠〉によれば訴外亡荒川俊は、訴外中山より、昭和一六年頃本件土地を賃借し、これを畑地として利用していたが、昭和二〇年頃住宅が戦災で焼失したため、本件土地上に建物を建てて居住しはじめ、昭和二七年に本件土地を分筆譲渡を受けたこと、訴外荒川俊は昭和三四年四月一二日死亡したが、昭和四六、七年頃までその家族が本件土地に居住していたものの、その頃までに順次他へ移り住み、以後居住する者がなく、本件土地上の建物は朽廃し、現在では廃屋となつていること、原告は、昭和四〇年まで本件土地に居住し、その後結婚して東京都に居住するようになつたが、将来名古屋に転居したいとの希望をもち、本件土地を単独で相続し、昭和四九年八月二一日その旨の登記手続をなしたこと、以上の各事実が認められる。

2  また、〈証拠〉によれば、訴外中山は昭和三五年に旧一番五の土地よりの土地を分筆し、昭和四一年一月七日にさらにの土地を分筆し、同月八日、の土地およびの土地の持分八分の五を訴外有限会社丸信建設に譲渡したこと、また同会社は昭和四四年一月一三日に右各土地を被告加藤に譲り渡したこと、訴外中川は、昭和四二年七月二八日の土地およびの土地を訴外川瀬幸枝に譲渡し、訴外川瀬は昭和五四年四月一一日右各土地を訴外川合留芳に譲渡したこと、訴外川合は昭和五四年四月二〇日訴外水野充外二名よりの土地を取得し、昭和五五年六月一三日、被告孟、被告暁子の両名に対し右、、の各土地を一括して譲渡し、被告孟は同日訴外中山の相続人多美夫からの土地の持分八分の三を取得したこと、昭和四一年頃、訴外有限会社丸信建設はの土地の西および北側の境界付近にブロック塀を築造し、その後被告加藤が右の土地を取得したのち、同地上には共同住宅(寮)が建てられていること、またの土地について、訴外川瀬が所有していた当時、管理の都合上、公道に接する部分(別紙図面イ、ト線付近)にブロックを積んで公道からの出入りを遮断したこと、被告孟、被告暁子が前記各土地を取得した後、昭和五六年三月頃、、、の土地を敷地として、の土地上に木造平家建建物を建築し、の土地を通路として公道に出入するために利用するとともに、別紙図面ロ、ホ線付近に鉄柵(開閉できる。)を設置したこと、以上の各事実を認めることができる。

3  〈証拠〉によれば、訴外亡荒川およびその家族は、本件土地に建物を建築して以来、訴外中川所有の旧一番五の土地を適宜通行していたが、その西端付近が畔道状態になつていたため、後に分筆されての土地となつた付近を主に通行していたこと、特に昭和四一年の土地を訴外有限会社丸信建設が取得した後、同会社がの土地の西端および南端に沿つてブロック塀を築造してからは、その西側であるの土地を通行していたこと、しかし訴外亡荒川の家族らの右土地の通行も、明確な権利設定がなされたうえでのことではなかつたので、訴外中川が、の各土地を処分し、かつ昭和四七年以降本件土地に居住する者がなくなつてからは、前示2のとおり、の土地が公道に接する部分にブロック積がなされて閉鎖されたものであること、昭和五五年九月八日被告孟、被告暁子がの土地上に平家建居宅を建築するため建築確認を得た際、、、の土地を一括してその敷地となし、特にの土地は建築基準法上の接道義務を満たすための路地上敷地とされたものであること、以上の各事実を認めることができる。

4  また、〈証拠〉によれば、原告は、本件土地を宅地として利用したいとの希望をもち、そのために車両の通行もできるように別紙図面赤斜線表示部分を通行したいとしているものであるが、被告らは、本件土地からは別紙図面緑線付近を通り、の各土地を経てその西にある私道(但し、公衆用通路として非課税扱いとされている。)に出ることをもつて足りるとしていること、しかし、建築基準法四三条、愛知県基準条例四条によれば、本件土地に居住用建物を建築しようとするときは、建物敷地は少くとも二メートル以上の幅で道路に接するものでなければならず、これが路地状部分によつて道路に接するときは、路地状部分の長さが一五メートル以上二五メートル未満のときは幅2.5メートル以上で、その長さが二五メートル以上のときは幅三メートル以上で道路に接しなければならず建築物の規模、構造及び周囲の状況により安全上及び防火上支障がない場合にはこの限りでないものの、本件土地については周囲の状況が閉鎖されたものであるためにこれに該当することはないこと、また右路地状部分は建物敷地であつて、他の建物敷地と競合するものであつてはならないこと、以上の事実を認めることができる。

三右二の各認定事実により、本件土地に認められるべき囲繞地通行権の位置、範囲について検討する。

1  原告は、請求原因3のとおり、別紙図面赤斜線表示部分が被告らにとつて最も損害が少なく、かつ本件土地の宅地としての利用上必要な通行権の範囲である旨主張する。しかし、右部分は公道より本件土地に至るまでの長さが三〇メートル以上あつて、かつその幅員は2.75メートルしかなく、本件土地の専用通路として確保されたとしても、前示建築基準法四三条、愛知県建築基準条例四条の接道義務の要請を満たしうるものではないうえ、右部分のうちの土地は、、の土地と一体の土地として接道義務を満たすべき路地状部分をなし、被告孟、被告暁子にとつて、の土地の利用上欠かせない土地部分であるところ、原告がこれを本件土地と合せて建物敷地として利用するときは、敷地の共用を許さない前記法令の原則上、、の土地に居住用建物を建築し得なくなるものであつて、右被告らの損害は極めて大きいというほかない。

2  さらに原告は、請求原因6のとおり、別紙図面青斜線表示部分に本件土地のための囲繞地通行権が設定されるべきである旨主張する。被告らは、右主張を時機に遅れた攻撃方法であるとして却下を求めるが、格別の証拠調べを要するものではないから右申立は失当である。しかし、原告が別紙図面記載B、C、F、Bの各点を結ぶ範囲の土地を別途取得したとしても、右青斜線表示部分を路地状の建物敷地使用しうるものでなければ本件土地が前記建築基準法令上の接道義務を満たしうるものではないところ、囲繞地通行権は、路地状部分としてではあつても建物敷地として利用することを認むべき権限ではなく(仮にこれを認めうるとすれば前同様に建物敷地の共用が生じる。)、右通行権の確保をもつて本件土地上に居住用建物を建築することが可能となるものでもない。

3  いずれにせよ、本件土地においては、現行建築基準法令上囲繞地通行権の行使をもつてただちに居住用建物敷地としての利用が可能になるものではないから、本件土地を宅地として利用するための囲繞地通行権を認むべき理由はない。そうであれば、本件土地の利用上往来通行に必要欠くことのできない通路は、本件土地の現状と今後の可能性に照し、当面、人の通行がなしうる範囲と位置があれば足りるものと解さなければならない。

4 そうすると、前示二の認定事実に照し、本件土地のための囲繞地通行権としては、被告加藤所有のの土地については共同住宅の敷地として利用され、かつその西、南の境界にはブロック塀が築造されているのであるから、右土地を通行することは相当でなく、民法二一三条により、本件土地から分筆されたの土地をまず通行すべきであるが右の土地の利用によつてはただちに公道に通じうるものではないので、従来使用されてきたものであつて、現状も通路状をなしているの土地およびの土地の西側部分を通行すべきものであり、かつその幅員は一メートルをもつて足りるものと思料する。すなわち、その位置と範囲は、本件、、の土地のうち別紙図面記載ト、チ、リ、ヌ、ハ、ル、ホ、ヘ、トの各点を順次結んだ範囲の土地(以下、別紙図面黒斜線表示部分という。)である。

5  被告らは、本件土地のための囲繞地通行権は別紙図面記載緑線付近に設定されるべきである旨主張するが、別紙黒斜線表示部分に囲繞地通行権を負担しても、それが建物敷地路地状部分としてではなく単に人の往来を受忍するものにすぎないから、被告孟、被告暁子所有の、の土地の利用上建築基準法令上の制約を受けるものではなく、その主要な部分が現在通路状をなしているため、被告らにとつて蒙るべき損害は少ないものと言える。これに比し、被告ら主張の別紙図面緑線付近を通行すれば、その距離が長いため囲繞地通行権を負担する面積が多く、かつ通路として利用するため整地等の措置も必要であり、別紙黒斜線表示部分の方が最も損害が少ないと言うべきである。

四ところで原告は、主位的に別紙図面赤斜線表示部分につき囲繞地通行権の確認を求め、予備的に別紙図面青斜線表示部分につき囲繞地通行権の確認を求めるところ、右各請求が失当であることは既に説示したとおりである。ところで、別紙図面赤斜線ないし青斜線表示部分は、本件土地のため通行しうるべき別紙図面黒斜線表示部分と一部重複するが、囲繞地通行権の性質上通路を一体のものとして確認すべきものであるから、別紙図面赤斜線ないし青斜線表示部分の各囲繞地通行権と同図面黒斜線表示部分の通行地通行権とは同一性がなく、したがつて訴訟物を異にするというべきであるから、右重複部分についてのみ部分的に確認することはできないものと解される。

五以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(大内捷司)

(別紙)

物件目録(一)

名古屋市千種区向陽町二丁目一一番の四

一 山林  三三〇平方メートル

但、現況宅地

(別紙)

物件目録(二)

名古屋市千種区田代町字蝮ヶ池一番六

山林  二六平方メートル

同所一番五

宅地  515.7平方メートル

同所一番七

山林  九五平方メートル

同所二番一一

宅地  147.43平方メートル

名古屋市千種区向陽町二丁目一一番五

山林  二〇四平方メートル

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